北原白秋  「落葉松」

しなの鉄道、中軽井沢駅から、北に向かう道。すこし山道にさしかかったあたり、右側に
星野温泉に入る道がある。この碑は、その分かれ道の木立の中にある。
おおきな石に、2枚の銅版を嵌め込んである。左下のものは、「落葉松」の全文が、活字で
書かれており、右上のものは、終章「よのなかよ・・・」が、白秋の自筆でかかれている。
通常の石碑は、文字が刻み込まれているので、文字が凹になっているが、銅版の場合は、
文字が、凸になっている。

白秋碑・落葉松
白秋拓本・世の中よ

世の中よ あはれなりけり
常なけど うれしかりけり
山川に やまかはの音
から松に 落葉松のかぜ
信濃にてうたへる    白秋

北原白秋
1885〜1942(明治18〜昭和17) 福岡県生まれ。
詩集に、「邪宗門」 「雪と花火」 「白金の独楽」 「水墨集」 「海豹と雲」など。
ほかに、童謡民謡も多い。この「落葉松」は、「水墨集」のなかの詩。

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からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。

からまつの林の奥も
わが通る道はありけり。
霧雨のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。

からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。

からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり。
からまつとささやきにけり。

からまつの林を出でて、
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。

からまつの林の雨は
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡るるのみなる。

世の中よ、あはれなりけり。
常なけどうれしかりけり。
山川に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。

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